元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『天国はまだ遠く』(瀬尾まいこ)

 

天国はまだ遠く (新潮文庫)

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人は一体何故生きるのだろう。

 そんなことをぼんやりと、僕は中学生の頃、一人机に座りながら考えていた。誰とも話をしないで、誰にも心を開かないで、いつもひとりでいた。最初は酷く苦しかったり辛かったりした。でも、その感情さえも麻痺したように次第に薄れていき、やがて、僕は休み時間の大半を人生について考えるようになっていった。けれど、どんなに考えても答えは出なかった。一時的に、考えることを放棄して、そうやって何とか自分を保とうとしたこともあった。思えば、僕はあの頃、生きることに目的を見出そうと必死だった。今は辛いけれど、将来いつか幸せを心から感じられる時が来ると信じていた。そう信じなければとてもじゃないけれど、生きるという行為を続けられそうになかったから。


 死んでしまおうと考えたことは、何度かあった。その度に僕は必死でそれを抑えようとした。何より僕は僕自身の将来について必死に希望を見出そうとしていた。その意味で、あの頃は今よりももっと健全だったかもしれない。でも、そんな気持ちもいつかは薄れていく。高校生になっても、結局中学の時と変わらない日々が続き、僕は本当に生きることが嫌になっていた。もう何もかもが面倒だと思った。ご飯を食べることも、寝ることも、息をすることも。だからある日、カッターナイフを持ってみた。左手にそれをそっと当てた。後はすっとそれを引くだけで、赤い液体が流れ出てくるはずだった。でも、僕はどうしてもそのカッターナイフをそれ以上動かすことができなかった。怖かった。これから襲い来るであろう痛みやその後に起こるいろいろな状況を考えたら突然すべてが怖くなったのだ。


 これ以来、僕は特に自殺もしくは自傷行為(未遂)をしていない。けれど、死に気持ちが時々傾くことは今でもあるし、それを扱った小説は率先して読んでいる。

 死ぬことを考えるということは、生きることを考えることと同義だ。死んでしまいたい、と思っている人は生きることを本当に真面目に考えているからこそ、死を選ぶしかないと思ってしまう。本当はそんな必要も無いのに、人間なんていつかは必ず死んでしまうのに、でも死を選ぼうとする人がいて、実際に死んでしまう人がいる。そんな時、彼、彼女のそばに誰かがいてくれたら、また違うのかもしれないと思う。一人でも、心の底から彼らを思い「大丈夫だよ、一緒に生きていこうよ」そう言ってくれる人がいれば、ほんの少しでも死ぬことを先延ばしできるかもしれない。


 主人公は自殺をするために木屋谷という田舎の集落へ行く。民宿に泊まり睡眠薬を大量に飲んで後は死ぬだけ・・・・・・。
 これ以上は、説明しない方が良いと思う。実際に、この本を読んでもらえれば分かるが、結局の所、生きることにあまりに真剣になってはいけないのかもしれない。どこか、ふっと力の抜けたくらいでちょうど良いのかもしれない。そんなことを感じた本。


生きること、死ぬことに真面目な人たちへ贈りたい本。

 

 映画化もされています。見ましたが、こちらもなかなか良かったですよ。

 

天国はまだ遠く [DVD]

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