【読書感想文】『神田川デイズ』(豊島 ミホ)
どうしてこんなにも沢山の自己啓発本が出版されているのだろう。
僕は書店に行くといつも思う。
嫌いではない。むしろ、立ち止まってぱらぱらと読んでしまう。
それは、多分、自分自身に自信が無いからだと思う。
とはいえ、中学、高校生の頃と比べれば、ずいぶんそういったものに振り回されなくなった。
「自分に自信が無い(自分のここが嫌いだ、あそこがダメだというようなものも含め)」を考えている時間は、とても不毛でもったいないということに気づいたから。
でも、この本を読んで、学生のときの気持ちを思い出した。
いや、思い出したというよりも、すぐそこに放っておいただけの気持ちを
改めて見つめたという感覚に近い。
ダメ人間の魅力
この小説に出てくる人物は、そのほとんどが、いわゆるダメ人間である。
でも、だからこそ、この小説は素晴らしい。
生き生きと常に前向きに生きている人間なんて、この世界に本当にいるだろうか。
一見、何も悩みがなさそうな人だって、必ず何かを抱えて生きているのだ。
そういう意味で、誰もが、この小説の登場人物の誰かに共感できるだろう。彼らと同じ経験をしていなくても、彼らの気持ちは誰しもがどこか感じるところがあるはず。
冒頭に書いたように、自己啓発本は山のように出版されている。
そして、そこそこ売れている本もある。
そういう本に書いてあることで最も多い内容。
それは
「自分に自信を持って」ということ。
でも、
わかってるんだよ、そんなこと言われなくても。
それができないから悩んでいるんじゃないか。
たしかにそうだ。
だから、自己啓発本を読んだり、色んな人に相談したり、一人でいつまでも悩んでみたりする。
きっともう人間というのはそういう生き物なのだ。
気がついたらあれこれと解決不能なことまで考えてしまうのは、至ってノーマルなんだ。だって、僕もあなたも、そこら辺を歩いている人も親も兄弟もみんなそうなんだ。違いは、その考える時間が、多い、少ない、というだけだ。
だからもう止めよう。
自分を考えすぎるのは。
自信がないと悩みすぎるのは。
こういうことって、なかなか言葉にしても伝わらない。
もちろん、それはわかっている。
でも、この小説を読めばひょっとしたら、それが伝わるんじゃないか、と僕は思う。
というわけで、お勧めです。
装丁は鈴木成一さんです。