元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『ラバー・ソウル』井上夢人

最後まで読む価値があるほど面白いの?

この小説は長編。ハードカバーで578ページある。読書好きな人にとっては気にならないページ数かもしれない。でも、普段本を読まない人にとっては「こんなに厚い本、大丈夫なんだろうか」と不安になるかと思う。本を読むということはそれなりに時間的コストがかかる行為である。僕みたいに小説バカ一代みたいな人からしたら、どんな本にだってそれなりに魅力があると思うので、そんなに面白くなくてもとりあえず最後まで読んでみるのだが、小説以外にもたくさん趣味がある人は、時間がない。

リアルが充実している人は、デートをしたり、家事をしたり、仕事をしたり、また、デートをしたりといったことをしなくてはならない。というわけで、長編の一番気になるところ「最後まで読む価値があるほど面白いの?」という疑問である。

 

ずばり言ってしまおう。この本は面白い。長いけれど長さを感じない。それどころか先をどんどん読みたくなる。最後まで読む価値がある。

 

僕自身の感想を言えば、僕はこの本を読んで心の底から良かったと思う。

 

 この本の魅力は以下の3つである。

  • 騙される快感
  • もう一度読みたくなる 
  • 人が人を好きになるということはどういうことなのか、について考えさせられる

 

騙される快感

 普段、騙された!ということはあまり経験したくないと思う(僕も実生活では、とんとお断りしている)。でも、小説の世界では騙されたもん勝ちなとこがある。騙されてなんぼや!というわけである。最後まで読んで、うぁ!やられた〜!と思ったら、それは素晴らしい小説である。

僕は、この小説を読む前の時点ですでに、この本がミステリーのジャンルで話題になっていることを知っていた。だから、なにかしら、トリックというかどんでん返しというか、そういったものがあるのだろうな、と推測しながら読んだ。

でも、全体の3分の2くらい読むまでそのトリックに気づけなかった。単に僕の推理能力が低いだけという可能性もある(笑)。でも、これまでそれなりに小説を読んできた僕だけれど、普通に見事に騙された!感があった。

やられたなぁ、と思いつつ、すごい、と思った。評判になっていた理由がよくわかった。

 

もう一度読みたくなる

騙されて、それで終わりではない。もう一度読みたくなるのだ。というのも再読する時には、必ず違う読み方ができる小説だからである。詳しく書くとネタバレになってしまうので、これ以上は何も言うまい。

 

人が人を愛するということはどういうことなのか、について考えさせられる

 僕たちはなぜ人を好きになるのだろうか。そしてなぜその人を愛そうと思うのだろうか。この問いは、多かれ少なかれ、誰しも一度は考えたことがあるかと思う。

たとえばカフェに入り、隣席の人の話に耳を傾けてみたら、好きな人の話だったりする。友人と話をすれば、出てくるのは付き合っている人に対する愚痴だったりする。

ありふれた話題。身近すぎて、でもだからこそ、本当のところはよくわからない。

「そもそも人が人を好きになるのに理由はいらない」という意見も耳にするし、そのとおりかもしれない。でも、この本を読んで、僕が考えたのは、人を愛することの大いなる力といったもの。

人を愛するということは、その人のことをどれだけ考えて行動できるか、ということかと思う。自分というものを滅してもなお、その人に幸せになってもらいたいという気持ち。それは、目には見えないけれど、とても大きく、純粋で、美しいものだと思う。

そういったことがこの本を読んで伝わってきた。ただし、最後まで読まないとそれに気づくことはできないので、是非最後まで読んでほしい。静かな感動があなたを包むと思う。

 

*ハードカバーは重いので、文庫でどうぞ↓

ラバー・ソウル (講談社文庫)

ラバー・ソウル (講談社文庫)

 

ちなみに、「愛することを忘れない1位」らしいです(笑。↓