元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『九月の四分の一』(大崎善生)

この本は短編集である。

前にも書いたことがあるかもしれないが、短編集というのは、本当に評価に困る。本来なら一つひとつに対して書評をすべきなのだろうが、そこまでして感想を書きたいとは思わない。それはこの本がつまらないとかそういう意味ではなく、単に僕が面倒臭がりだからだ。

4篇の短編で、最後の「九月の四分の一」以外、主人公が全て出版社で働く設定なのは、如何なものだろう。それでなくても、この作家の主人公はしばしば編集者である。それがこの作家のスタイルなのだとすればそれまでなのだが、一読者としてはもう少しバラエティを加えて欲しいと思ってしまう。

 

それにしても、出会いと別れが良く描かれている。当たり前だといわれそうだが、これは小説だ。出会って幸せに暮らしてハッピーエンドでも、全然構わないはずだ。でも、この作者はそれをしない。あえて、出会った相手とはいつか別れる・・・・・・それを予感させて実際に実現させる。現実世界に即した小説。それはとてもリアリティがあって、痛く、そしてせつなさをもたらす。一期一会を上手く切り取った短編集。

どの作品も良いと思ったが特に、「ケンジントンに捧げる花束」が良かった。

 

九月の四分の一 (新潮文庫)

九月の四分の一 (新潮文庫)