元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『きいろいゾウ』(西加奈子)

 

きいろいゾウ

きいろいゾウ

 

 

底抜けに明るい人になりたい、と思ったことがある。

 いつ見てもあの人はとっても前向きで、素敵な笑顔をしていて明るくて・・・・・・そういう人に憧れたことがある。彼らの傍にいると、確かに、自分の気持ちまでもが、ふわふわと幸せで浮き上がってくるようなそんな気持ちになれたから。
 この小説は冒頭、すごく明るい。田舎で暮らす若い夫婦。彼らを取り巻く環境は、自然に囲まれていて、動物や虫の音でいつも喧しい。けれど、それは光溢れた生命との共生に繋がっていることを示していて、なんだか羨ましい。このまま、ずっと平和な感じが続くのかと思っていた。しかし、少しずつ綻びが生まれる。最初は小さなものだったのに、気が付いたらお互いにとって、お互いの気持ちが分からなくなっていく・・・・・・。

 結婚ということについて考えてみた。他人と生活を一緒にするということ。この人と一生を共に生きていこうという終わりの無い約束をするということ。
 本当に大切だから、相手に言えない想いがある。それらが少しずつ容器に溜まっていき、やがてその容器から溢れ出す。一度溢れてしまったものは、なかなか元に戻すのが難しい。けれど、それを乗り越えていくことが出来なければ、結婚などそもそもするものでは無いと思う。
 当然なのだ。すれ違いが起こるのは。いくら血の繋がった家族であっても、それは常に起こりえることだ。一人一人が、自我を持っているのだから、衝突することもあるだろう。それによって傷つけられることもあるだろう。けれどそんな時にこそ、どれだけ相手を思いやれるか・・・・・・ということに尽きるのではないか。そして、それは、やはり言葉にしなくては伝わらないことがあると両者がお互いに自覚し合うことなのではないか。自分の中に溜めてしまう前に、適度にお互いに言いたいことを言い合える・・・・・・そんな関係を構築すること。
 ものすごくスタンダードなことを書いているが、これこそが簡単なようでいてとても難しいのかもしれない。もちろん、これは全て僕の考えに過ぎないし、結婚もしてないから何の根拠も無いのだけれど。

 僕はこの本を読む前、正直言って、そんなにたいしたことない本だと思っていた。この作家の本を読むのは初めてだったし、何よりこのタイトルと、表紙の絵が、なんとも子供向けな印象を与えていたからだ。
 けれど、その考えは嬉しい方向へ裏切られた。この小説の中の登場人物たちはちゃんと生きている。息を吸って吐いて・・・・・・そういった生々しさが感じられる。それに、時折くすっと笑える箇所があったり、登場人物の心に共鳴出来る部分があったり・・・・・・。これらはひとえにこの作家の力に違いない。
 肩肘が全く張っていない。至って自然なのだ。そこがこの本の・・・・・・もしかしたらこの作者の文体の魅力なのかもしれない。

 最後に1つだけ付け加えておこう。
 
 この本は、大いなる恋愛小説である。
 

 

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この感想文は、2007年に書かれたものです。