元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『手紙』(東野圭吾)

 

手紙 (文春文庫)

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 犯罪者の弟……それだけで、こんなにも苦しまなければいけないのか。彼には何の罪もない。それは皆分かっている。分かっていて、それでも、差別をする。
 差別はなくならない。この本では、差別は当然と説く。犯罪者やそれに近い人間を排除しようとするのは、しごくまっとうな行為だと。犯罪を犯す人間は、将来的に自分の家族をも苦しめることになるのだということを示さなければならない、と。
 厳しいけれどこれが現実なのかもしれない。もし僕の近所の家で強盗殺人が起こったとする。その家族に対し、僕はきっとそれまでと同様には振舞えない。いや、同様に振舞おうと努力するかもしれない。けれど、心底では、避けたい……という感情をきっと抱くだろう。もしかしたら、同情心なども湧くかもしれない。けれど、間違っても「大変でしたね……」なんて言葉は掛けられない。そんな軽い言葉で片付けられるほどの出来事じゃないから。僕はただ見てみないふりをしたり、適当な会釈をして去っていく、そんな傍観者の1人になるだけだろう。
 犯罪者は罰せられなければならない。それは当然だ。しかしその家族までも罰せられなければいけないのか。そこまで責任を負う義務は果たして本当にあるのか。いや、実際はそんなものはない。家族は、例えばその犯罪者の親はある一定の過失責任を問われてもまだ納得がいくが、兄弟や親戚といった括りになると大いに疑問だ。それなのに、実際に差別は存在して、僕自身もきっと差別をする。この矛盾。どうにかならないのか。例えば、犯罪者の家族をもっと保護する制度を作るとかそういったこと。

 「ああ、犯罪者の家族だから仕方ないよな」なんてそんな考えを持つ人たちを、一刻も早く減らしていくべきだ。けれど、そのためには犯罪者の家族が受けている差別を知る必要がある。その第一歩としてこの小説をぜひ読んでほしい。知らないというだけで、いつの間にか、あなたは差別に加担しているかもしれないのだから。

 

 最後に映画との比較を少々。僕は、映画を見てからこの小説を読んだ。映画では小説で描かれていなかった部分、例えば、兄の刑務所での風景等があったりして、映画は映画として評価する点がたくさんあると思う。
 もちろん小説は小説としてよいと思うが、この作品に関しては、自分としては珍しく映画の方が小説よりも評価が高い。

 

というわけで映画、おすすめです。

 

 

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