元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『夜市』(恒川 光太郎)

幼い頃、毎年春にやる祭りに行くのが楽しみで仕方が無かった。

その祭りでは、商店街にずらりと露店が出ていた。綿菓子、焼きそば、たこ焼き、りんご飴・・・お祭りに行く前に祖父母からもらった千円を持って行くのだが、優柔不断な自分は何を買おうか迷ってばかりで、散々迷ったあげく、小さなりんご飴だけということもあった。でも、普段とは違う活気に満ちた雰囲気があって、その場にいるだけでも楽しかった。


祭りは昼も夜もやっていたため、昼に行って夜にも行くことがあった。昼間とは違い、夜は裸電球をつけた露店の柔らかな黄色い光に包まれて、これはこれですごく風情があった。夜はなぜか、射的の印象が強い。射的は高いので、自分ではほとんどやった記憶が無く、誰かがやっているのを見ていた。何度やっても、誰がやっても、ゲームソフトは棚から落ちることはなかった。あともう少しなのになぁ…という気持ちが、これは最初から取れないんだよなぁ、とあきらめの気持ちに変わるまでに成長しても、毎年のように僕は射的を見るのが好きだった。
だから、祭りというと盆踊りでもなく、神輿でもなく、僕は露店がずらりと並ぶ商店を思い出す。

 

夜市を読んで、そんなことを懐かしく思いだした。とはいえ、これはホラー小説。お金を出せばなんでも売っている夜市。ここに行ったら、何か一つ必ず買わなくてはいけない。買わなければ夜市から永遠に抜け出せない。

確かに怖い。けれど、その中に切なさがある。これまで読んだどの小説とも違う文体だったが、とても面白く引き込まれた。

夜市 (角川ホラー文庫)

夜市 (角川ホラー文庫)