元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】みなさん、さようなら(久保寺健彦)

 団地から出られない主人公の話。 

 

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団地で思い出すのは、小学校低学年の頃のことだ。 僕には当時、とても仲のいい友達がいた。 彼は団地に住んでいた。 彼の住んでいた団地は、自宅から歩いて分ほどのところにあったため、 放課後はしょっちゅう団地周辺で遊んでいた。 

 

何度か、彼の部屋にも行ったことがあるが、 狭い中に色々と家具が詰め込まれていたという印象がある。 自分の実家は決して広くはないけれど2階建ての一軒家なので、 団地の部屋の狭さがとても印象に残った。 

 

ある日、 彼が引っ越すと聞いた時、信じられなかった。 引っ越し先は確か、北海道だったと思う。自分が住んでいるのは静岡県だったから、またいつか会えるなんて思えなくて、 なんで引っ越しちゃうんだろうって悲しくなった。 もちろん、親の都合だったと思うけれど、 彼はどんな気持ちだったんだろう。 

 

引っ越し先の住所や連絡先を尋ねたのかどうか、覚えていない。 彼が引っ越してからしばらくは寂しかった。でも、別の友達と遊ぶようになって、 我ながら薄情だと思うけれど、やがて彼のことはすっかり忘れてしまった。 

 

この本を読んで、久しぶりに彼のことを思い出した。 

僕は、今でも彼の名前を覚えているし、 彼と遊んだ日々のことを思い出せる。 これまで連絡をとろうともしなかったけれど、 そして、しばらくしたら彼の存在さえも忘れてしまっていたけれど、 僕にとって彼はたしかに大切な友達だった。 

 

今、どこで何をしているのだろう。 多分、万が一すれ違ったとしても気づかないだろうけれど、 今でも元気に暮らしていてくれたら良いと思う。 

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団地の中だけで生活するなんて、なんかおかしい。 

そう、おかしいのだ。でも主人公にとってはそれがすべてだった。 

 

団地で生きる彼のライフストーリー。 

みなさん、さようなら (幻冬舎文庫)

みなさん、さようなら (幻冬舎文庫)