元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『南の島のティオ』(池澤夏樹)

数年前、サイパンに行った。どこまでも続く青い海、白い砂浜。そこにはイメージ通りの南国の楽園があった。いつか南の島で暮らしたい、そう思った。サイパンから帰国して数ヶ月が経っても、その気持ちはしばらく収まらなかった。けれど、現実を鑑みるとサイパンに移住することは諸々の事情により難しく、現在も自分は東京の端っこで暮らしている。

 

南の島に住むティオという少年の視点で語られる島の暮らし。子供向けに書かれたこの小説はとてもシンプルで読みやすい。けれど、大人になった自分が読んでも心を動かされる素晴らしい小説だ。

 

思えば子どもの頃、時間は無限にあった。学校から帰ってきて友達と暗くなるまで近所の公園や畑、空き地で遊んだ。その当時の楽しかった記憶をこの小説を読んで思い出した。きっと自分はあの楽しかった瞬間に戻りたいんだと気づいた。

 

大卒とともに静岡の田舎を飛び出し、就職をし、現在は東京に暮らしている。ここでの暮らしは便利だ。徒歩5分以内にコンビニがありスーパーがある。最寄り駅まで7分。電車一本で新宿まで行ける。車は要らない。「便利」。だけれど、それが「豊か」なのかどうか。この歳になると、よくそんな事を考える。

便利さは無くても豊かな暮らしはできる。ここよりずっと不便でも毎日しあわせに暮らしている人達がいる。そこに派手さや刺激はないかもしれない。でも、そんな日々にこそ、貴さを覚えるようになった自分は、もうなんだかずいぶんと歳をとってしまったように思える。まだ35歳なのに。でも10代の頃の自分からしたら確実におじさんだ。

 

お金を稼ぎたい、という気持ちも最近はほとんど無くなってしまった。お金がなくてもシンプルに自給自足をして暮らしたいと思う気持ちが最近は強くなっている。かと言ってそれをすぐに実行するほどの勇気もない。結局の所、今はまだ東京(またはその周辺)でしばらく暮らすだろう。でも、もしもっと歳をとった時、たとえば数十年後の選択肢の一つとして、南の島で自給自足的な生活をして暮らすのもありなのではないか、と密かに思っている。

 

※ほとんど小説自体の紹介はしていないけれど、それは読んでのお楽しみ。老若男女、どんな人にも絶対に響く内容があるのでおすすめ。 

南の島のティオ (文春文庫)

南の島のティオ (文春文庫)