元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『君に言えなかったこと』(こざわたまこ)

生きていると、「あの時、あの言葉をあの人に言っていたら自分の人生の何かが変わっていたのでは?」と思う時があるのではないか。自分は最近それをよく思う。過去に出会った沢山の人達。今はもうそのほとんどの人と会うことがない。それどころか、連絡さえもとっていない。彼らは今、何をしているんだろう。過去の思い出と共に浮かんでは消えて流れ去っていく想い。分厚い雲や晴れ渡る空を眺めながらふと思い出す瞬間。君にあの言葉を言えていたら……。そんな「もしも」を考えながら僕の思考はいつものようにこの世界から切り離されていく。

 

短編集だ。特に「待ち合わせを君と」がとても素晴らしい。若い頃に出会い、付き合い、別れてしまった人と遊園地で偶然に再会する。お互いもう結婚して子どももいる。でも実は主人公は……というラスト数ページの流れに驚く。若い頃はなんであんなにも残酷になれたんだろう。すでにアラフォーに仲間入りした自分としては過去を思い出すときにそう思う。今だったらもっと違った言葉で伝えられたのに。もっと優しい言葉で言えたのに。思えば後悔だらけの人生だ。それでもまだ生き続けなければならない。

君に言えなかったこと

君に言えなかったこと

  • 作者:こざわたまこ
  • 発売日: 2018/08/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)