【読書感想文】『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹)
村上春樹の小説は思考の奥深くにいつも自分を連れて行く。ただ毎日を消化するように生きる中で、「考えてみたら?」とふと言われているかのような気分になる。正直言って心に余裕がないと読み進めることができない。
この小説は、村上春樹の中でもわかりやすく、ストーリーもシンプルだ。過去、とても仲が良かった仲間たちはある出来事をきっかけに離れていく。その後、それぞれの人生をそれぞれなりに懸命に生きていく。何年かの後、再会してみると、変わっているようで、実はまるで変わっていない。
36年生きてきた自分が思うに、人生には時に叫びだしたくなるような衝動を覚えたり、何もかもを捨て去りたい夜があったり、そういう瞬間を乗り越えながら人は自分の人生を生きているのだ。悩みなんてありません、そんなのは嘘だ。悩まない人生なんてない。生きていればもうその次の刹那には悩むことになる。それが人生だ。悩みを抱えて、それを放り出してみたり、抱えてみたり。時間が解決するものもあるししないものもある。生きていた方が良いと思うこともあるし、死んでしまった方が良かったと振り返ることもある。
最終的にこの小説の主人公が到達した地点を僕は素直に、真理だと思う。結局人はつまるところ、そこに向かうことになる。多かれ少なかれ、きっと。