元はただの石ころ

「確かなのは過去でも未来でもなく今」とわかっているけれど、そう簡単に割り切れない奴の日常

【読書感想文】『流れ星が消えないうちに』(橋本紡)

 

流れ星が消えないうちに (新潮文庫)

流れ星が消えないうちに (新潮文庫)

 

 

僕がこれまでの生涯の中で忘れられない夜空は、ニュージーランドで見た、零れ落ちるくらいに沢山の星が広がった空。流れ星さえ、流星群を見ているわけでもないのに、三十分程度の間に5つ程も流れた。

あの時、あの場所で、僕は確かに地球が宇宙に存在していて沢山の星たちに囲まれているのだということを心から感じた。そして、自分がこの場所に生きているのだということを実感した。その夜空は、「人が生きる」ということの究極的にシンプルなそれでいて根源的なことを僕に思い出させてくれた。

流れ星が消えないうちに、僕は願い事を祈ろうとしたけれど、なかなか上手くいかなかった。驚きばかりが先行していて、あっという間にそれは流れ去っていった。五回のうち、最後の数回の時に、全ての人の幸福を繰り返し祈った。あの空を前にして、僕は自分の幸せや、自分の周りの人だけの幸せなんて祈れなかった。この空が、全ての希望を忘れた人たちに届けば良いと思いながら、僕は願いを込めた。

 

書評に入る。
加地が死んでしまってから、玄関で眠るようになった奈緒子。その奈緒子と今付き合っている巧は、加地の友人であった。加地という人物が、奈緒子と巧の中でとても大きな存在であったのだが、その存在が消えてしまった後、彼らが悩み苦しみながらも生きていく姿を、奈緒子の視点、巧の視点を交互に織り交ぜて書かれている。

この作家の文体や言葉の使い方が僕はとても好きだし、ストーリー自体もとても良いと思う。登場人物の感情の細かい機微も上手く表現されている。ただ、加地という人物が奈緒子と巧にとって、偉大すぎる人物であったという設定上、彼らの視点を通して描かれる日常が少し重い。読者として、彼らの視点に上手く入り込めるか、感情移入できるかがこの本の印象を決める鍵だと思う。

 

自分は単行本で読みました。 

流れ星が消えないうちに

流れ星が消えないうちに

 

 

kindle版もあります。

流れ星が消えないうちに

流れ星が消えないうちに